以前、「適切な⊿が評価される」というタイトルで、差分⊿の話を書きました。その後⊿について改めて深く考えてみると、色々な分野で⊿が出てくるのではないかと思うようになりました。
例えば、「水の低きに就く如し」という「孟子」梁恵王上篇に出てくる言葉があります。
意味としては、
「自然にして帰すること。 また、物事の自然な成り行き、世の中の大きな流れは止めようとしても止められるものではないということ。 水が低い方へ低い方へと自然と流れていくことから。 」
というものですが、ここにも⊿が出てきます。
高い場所と低い場所の差分⊿があれば、水が低い場所に自然と流れていく、止めることは出来ないと示しています。
また、⊿自体にも色々な属性が存在します。
一つ目に「お金の⊿」があります。例えば、銀行が安い金利で調達したお金(みんなの預貯金)を高い金利で法人に貸し出して、その差分⊿で利益を得ます。同様に、貿易においては安く仕入れた商品を他国に持って行って高く売ることで⊿の利益を得ます。金融商品は配当金や金利、家賃収入など別途ありますが、基本的に株式も債券も不動産も安く買って高く売ることで⊿の利益を得ます。(空売りは先に高く売って安く買い戻す⊿の利益になります。)他にも、先進国と発展途上国の人件費の⊿を利用して、削減するコストの⊿を作ることで利益を作ります。
二つ目に「ブランドの⊿」があります。例えば、フランス・イタリアなどのブランド商品を日本に持ってくることで、相対的にブランド力の強い商品が売れることになります。最近では、逆に日本の漫画やアニメなどのブランドをフランス側に持っていく事で売れている部分もあります。いずれもブランドの⊿による高いところから低いところに流れる現象です。
他にも「テクノロジーの⊿」があります。高い技術力やノウハウ、プロセス、ビジネスモデルなどを持っていない国や地域に持っていくことで産業が移管していきます。例えば、シリコンバレーの成功しそうなビジネスモデルを日本に持ってくれば良いという孫正義氏の「タイムマシン経営」と提唱したやり方もその一つです。
差分や歪み(無理やり作られた既得権益のための市場、法律・ルールを逆手に取るなど)などの⊿があれば、自然と流れができ、高い所から低い所にお金やブランド、テクノロジーなど目には見えない価値が動き出していきます。
逆に言えば、⊿がなければ流れができません。⊿(需要>供給)がなければ、「良いものを作れば売れる」こともありません。
自らが流れの作り手となるならば、提供するモノやサービスを高い位置に押し上げる努力も大事なことながら、どの対象(エリア)と比較して相対的にどれくらい高い位置と考えられるか、またその狙うべき対象はどこか(誰か)を考えることが更に重要なことだと思いました。
大企業での業務やそうした企業のコンサルティングをしていると、対象との⊿を考えずに、自社のモノやサービスをとにかく高めれば良い(良いものを作れば売れる)精神に傾倒しがちでしたが、ベンチャーや中小企業の場合はリソースも限られブランド力もない中で、その方法は適用できませんでした。
それよりも相対的に凹んでいる対象やエリアを選定し、それに対してどれくらいの⊿を作り流れをつくれるかを考えることの方が重要になります。
今後、新規事業の戦略策定を行う際は、3C分析(自社、競合、市場)といった分割されたフレームワーク、更には言えば固定された場所からの分析ではなく、「⊿=市場-自社」の差分関数から逆張りに市場と自社の変数を決めていく方法で検討しようと思っています。