「ゲシュタルト崩壊」と「鬱」

大学院を卒業して、コンサルティング会社に入社した社会人1年目の時、私は人生で初めて「」になりました。それまでは、努力すれば結果が出るイメージもあり、「なんでもやればできる」と思って生きてきていました。比較的に自己評価も高い方でした。

しかし、実際に社会人になり、海外進出の事業支援として中国に渡り、何をやれば価値になるのかも分からず、情報を調べてみては意味のない情報の山(資料)を作り、論点を作ってみては「だから何?」といった内容になり、クライアントにも「何で君がアサインされているの?」とタクシーの中で言われ、ホワイトボードの前でファシリテートしようにも何も誘導できず、まさに付加価値ゼロの状態が続きました。

その後、仕事している時間が短いから出来ないのだと、睡眠時間を1日3時間以下に削り、頭も働かなくなり、更に意味不明な考えに陥り、徐々にメンタル的にもおかしくなっていきました。

徐々に食欲もなくなり、味覚もおかしくなり、焼肉が紙を食べている味がして、睡眠欲もなくなり、幻聴と幻覚が襲うようになってきました。最終的には、視界が狭くなってきて、地下鉄に乗っていても、電車の扉の位置が分からず、降車したい駅で降りれなくなりました。

病院へ行くと、「重度の鬱」と診断されました。

なので、社会人1年目は暗黒の時代にて、「鬱」状態が10ヵ月以上続きながら、騙し騙し仕事をしていました。(医者からは休職を求められましたが、なぜかそれはしませんでした。)

10ヵ月ほど経ち「もう限界かなと思った」そんな時、信頼する上司の一言で、曹洞宗のお寺に座禅修行に行くことにしました。

冬のお寺で修行している間に、普通の感覚(お腹が正常に空く、眠い、寒い、痛いなど)が徐々に戻ってきました。

そして、その当時の自分よりも若い18や19くらいの修行僧が、とんでもなく大人で輝いて充実して見えていました。お寺では、お経を唱え、座禅をし、作務(掃除)をし、精進料理を食し(作り)、1.5畳ほどの畳の上で静かに寝るをただ只管に繰り返す。

これまでの自分の価値感では、専門誌や新聞、雑誌などで新しく小難しい情報を誰よりも早く大量に取得・勉強し、それっぽく解釈し語れないと、社会人としてはついていけない、イケていないと思っていました。それが、お寺で修行している若いお坊さんを見た瞬間に、そうしたこれまでの自分の価値観が、「とんでもなくしょーもないもの」「どーでもいいもの」にその時初めて思えたのです。

これまで普段見えていたもの、しなければいけないと思っていたものは、自分が勝手に選択して見ていたもの勝手にしなければいけないと思い込んでいたものだったと初めて気づいたのです。人は自分の心の中で都合の良い(もしくは見たいと思っている)ものしか、見ていないことに気づいた事で、ようやく「鬱」から脱出することが出来ました。

have to」なんて、そもそもないのです。じゃあ「want to」だけ、やればいいじゃんと思って楽になりました。そうした発想が切り替わったことで、脳も正常に稼働し始め、仕事も結果的に上手くいくようになりました。

ただ、この「鬱」の経験は、脳の活動を理解できる良い機会でもありました。「鬱」の状態のとき、まさに常に脳が「ゲシュタルト崩壊」状態でした。

「ゲシュタルト」とは、「全体性をもった繋がり・まとまりのある構造」のことです。人は、モノを見るときに、なんとなくの全体(ゲシュタルト)で理解出来るようになっているのです。

例えば、まさに「鬱」という字も、「木」が2個あって真ん中に「缶」があってと、部分のパーツを見てから「うつ」と理解をしているわけではなく、なんとなく全体の字の雰囲気から「うつ」と読めてしまうのです。(なので、実際に書けと言われれば大抵の人は読めるのに書けません。)

ですが、「鬱」の時は、これが出来ませんでした

「ゲシュタルト崩壊」を起こして、どんな文章も理解できず、文章を読んでもそれぞれの単体の文字が浮いているようにしか見えなかったのです。また、曜日なども「月」「火」「水」「木」「金」「土」「日」という意味が分からなくなり、ただの文字としか理解ができなくなりました。

「ゲシュタルト」を人がどのように自然と理解できているのかについて、この「ゲシュタルト崩壊」(鬱)の経験を機会に良く考えれるようになりました。

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