コンサルティング会社で学んだことは、仮説思考や論理的思考、資料作成や分析の仕方、インタビュー方法といったスキル的なことは色々と多くありましたが、4年目を迎えるある日、ふと思ったことは、自分がやっている事は一般的なビジネスではなく、コンサルティングという特殊なビジネスを学んだに過ぎないのではないかということでした。
論点ツリーを書き出したり、クライアントから引き出した情報を構造化して見える化したり、記事や競合ベンチマークから情報を整理したりする日々は、何かをゼロから作るわけではなく、実際に既にあるものを加工し、分かりやすい形に修正し適切な人に伝えるという特殊なビジネスだったと気づいたのです。
このことは、クライアントが売上1兆円以上の大企業から数百億円規模の中小企業まで、伝え方や内容は変われど、何れも基本的な部分は同じでした。
「このビジネスに浸りすぎていると普通の一般的なビジネスの発想から離れすぎてしまうことになる。」
これはマズイと本能的に感じ、私はコンサルティング会社を辞めることにしました。
会社を辞めてから、大学時代の先輩に誘われて、音楽教室のベンチャー企業に役員として入社しました。
業種は「音楽」、形態は「ベンチャー」、担当は「マーケティング」、肩書は「取締役」と何から何まで初めて尽くしで、これまでの働き方や考え方とはまるで異なる世界でした。
自分としては、コンサルティング会社ではそれなりに価値を出していたつもりだったので(実際はどうだかよく分からないが)、ベンチャー企業でも役員として直ぐに価値が出せるものだろうと思っていました。
しかし、全くダメでした。
これまでの自分のやってきた事は、正直ただの「分析屋」もしくは「批評家」でしか無かったんだと思ったほどです。実際に、売上を上げる為の広告一つすらやり方が分からないのです。HPをどうやって作るのかも分からない。SEOやらSEMやら単語すら分からない。雑誌広告、街頭広告なにが集客に効くのか見当もつきません。どんなイベントを企画すれば人が集まるのか、そもそも何を企画したら良いのか。
初めは、戦略チックにバリューチェーンやマーケティングのセグメンテーションやら競合分析などをしていましたが、そんなことは1円の売上にも貢献しませんでした。
コンサルティング会社時代は、そうした戦略を作るだけでお金を貰っていましたが、戦略を実行する人がいないベンチャーにおいて、丁寧な戦略資料を時間をかけて作っている意味は全くなかったのです。
戦略を作って、自分で実行して、失敗して、また戦略を練り直して、自分で実行して、結果を出して、それを誰かにやってもらうというサイクルを作らなければいけないことに気づくまでに時間がかかりました。
またベンチャー企業の場合、「マーケティング」→「顧客獲得」→「サービス開発」→「顧客対応」→「顧客満足度向上の為のオペレーション」は全て一人で実働までやる必要があり、まさに言葉通り「走り回りながら考える」が求められました。更に当然ながらベンチャーなので、借入金を金融機関から多く調達することは難しく、ベンチャーキャピタルなどに掛け合い、出資金を募る形も初めて経験しました。
売上を上げて、利益率を高めて、新規事業をまた立ち上げて、というPL右肩上がり施策を考える事に集中していたコンサルティング時代と比較すると、考えなければいけない内容が急に「多方面同時多発的」といった感じになっていました。ただ、多方面同時多発的に考えるのが当たり前になってくると、ある機能部署だけを考えておけば良いとは思えなくなり、会社全体を包括的に考えることが自然な事になってきました。
常に補給が足りていない戦線だらけのベンチャー企業において、意図的に補給を優先して実施すべきところは何処かを瞬時に判断しなければいけません。そして、その優先するべき戦線の判断がその会社の方向性を指し示すものだと思いました。
この会社の方向性において、代表の社長と自分は少し異なるなと感じました。どちらが間違っているとか正しいではなく、優先するべき戦線の違いでした。ただ、それはベンチャーにおいては死活問題だと思い、改めて代表にその話をして会社を辞めることにしました。