社会人になる前、京都の大学で精密機械系の研究室で大学院生をしていました。
研究テーマとしては、建物の屋上などにある「配電盤」の設計最適化について扱っていました。
配電盤というのは、受注したら基本的に都度用途に合わせたカスタマイズ製造をしており、毎回一品モノを作るのが主流でした。しかし、製造コストやリードタイム(受注からお客様に商品が届くまでの時間)が大幅にかかってしまい、なんらかの施策が打てないか悩んでいました。
そこで、配電盤の構成部材や機能をそれぞれ分解し、共通で良く使うパーツに関しては、全て同じサイズの共通パーツにしてしまう事を検討しました。ただし、何でもかんでも共通パーツにしてしまうと、扱える電圧や電流に制限がかかってしまったり、配電盤のサイズが大きくなってしまったりして、商品の魅力や性能が下がってしまいます。
これが、「トレードオフ」と言われる現象です。
共通パーツを増やして、「製造コスト」を安く「リードタイム」を短くしようとすると、「性能」が下がる。一方で、カスタイマイズ製造すればするほど、「性能」は上がるが、「製造コスト」は大きくなり「リードタイム」も長くなる(設計や部材調達の時間などが増える)。
この最適な条件を出す為に、数式を作り、プログラムを作って計算していました。
考え方としては、「目的関数」と言われる一つの数式を作り、
「目的関数」=α×「製造コスト」+β×「リードタイム」+γ×「性能」
のように定義します。
その式の中でパーツの「共通化」による変動式を組み込みます。その「共通化」レベルを様々に変動させることで、最適な「目的関数」の値を示す、最適な「共通化」レベルを見つけることが出来ます。
これを「パレート解」と呼びます。
研究の際には、京都にある配電盤を製造している企業と共同研究を行い、実際の製品で適用して検討を行いました。
この研究を通じて学んだ「目的関数」や「変数」の「制約条件」、「トレードオフ」の考え方は、社会人になって「ビジネス」の世界でも非常に役に立っています。
例えば、良い人材を得ようとすると、「給料」や「求人費用」が高くかかり「コスト」は大きくなるが、能力が高い為「仕事のパフォーマンス」は大きくなるなど、これも一つのトレードオフの事例になります。そうしたバランスを考えなければいけない際、その時の状況を鑑みて、今はこの配分(変数)で「目的関数」を最大化しようと無意識に計算して判断しています。
こうした「最適化」の研究をしていて本当に良かったと思えるのは、「最適な答えを得る方法を得た」ことではなく、「最適な答えを得るプロセスを見える化できるようになった」ことです。