「姑獲鳥の夏」から学ぶデータ入力

ホテルの設備や備品管理のアプリのUIデザインを考える中で、「UIデザインを検討して気づいた事」にも書いたように、「そもそもの目的を言葉にしなければプロダクトは作れない」という至極真っ当なスタート地点に戻ることができました。

そして目的を明確にすることで、「誰に」とって「意味のある」データを「どのように」見せるかが分かりやすくなりました。

すると次にぶつかったのが、「インプットデータ」と「アウトプットデータ」の繋ぎ込みでした。まず、インプットデータをどのように拾うのか、そしてそれをどのようにアウトプットデータとして活用するか、前回の最後にもそのような内容を書いたかと思いますが、ここが非常に重要になってきました。

インプットデータというのは、人間が打ち込む場合、人間が「知覚したデータ」なのです。具体的にはホテルの設備であれば、「テレビが映らない」とか、「客室の壁が壊れている」とか、「トイレの水が流れない」とか、そうした設備の異常状態です。

ただ、これは一方で異常だと「知覚」「認識」しなければ、スルーされて情報がインプットされないことになってしまいます。つまりは、目では見えているけど、脳では見えていない状態です。この辺りを考える上で、ちょうど最近読んでいた「姑獲鳥の夏」という小説の内容がハマったので、備忘録的にも一部内容を下記に引用します。

「世界は二つに分けられる。人間の内に開かれた世界と、この外の世界だ。

外の世界は自然界の物理法則に完全に従っている。内の世界はそれを全く無視している。人間は生きて行くためにこの二つを巧く添い遂げさせなくちゃあならない。生きている限り、目や耳、手や足、その他身体中から外の情報は滅多矢鱈に入って来る。

これを交通整理するのがの役割だ。
脳は整理した情報を解り易く取り纏めての側に進呈する。

一方、内の方では内の方で色色と起きていて、これはこれで処理しなくちゃならないのだが、どうにも理屈の通じない世界だから手に負えない。そこで、これも脳に委託して処理して貰う。脳の方は釈然としないが、何といっても心は主筋に当たる訳で、いうことを聞かぬ訳にいかない。

この脳と心の交易の場がつまり意識だ。

内なる世界の心は脳と取り引きして初めて意識という外の世界に通じる形になる。外なる世界の出来事は脳を通して訪れ、意識となって初めて内の世界に採り込まれる。意識は、まあ鎖国時代の出島みたいなもんだ」

京極夏彦. 姑獲鳥の夏 講談社

外の世界を解釈しているのは、インプットしている人間の脳であり、更に言えば心が決定権を持ちます。

単純な異常状態、例えば上記に書いたような「テレビが映らない」といった誰が見ても分かる内容であれば、外の世界をそのままインプットしてくれる可能性は大きくなりますが、「シャワーの出が悪い」といった内容であれば人によって異常と判断する人もいれば、正常と判断する人もいます。

なので、ある程度、異常状態のデータサンプルを構造的に先に持っておき、まずはこれが異常状態なのだという認識をインプットする人に理解してもらう事が重要だと思いました。

インプットする側の意識が高い場合に関しては、フリーテキストスタイルでも十分成立すると思いますが、そうではない場合は選択方式(固定端方式)を採用することで、まずはデータの密度(どこで頻繁に起きているか)や頻度(何ヵ月おきに起きるか)、解決策のマニュアルをアウトプットできるようにすることが、最終的に加工したデータが意味を持つ上でも非常に重要になるのです。

自由端方式(インプットもアウトプットもフリースタイル)では、入力する人のレベルでアウトプットの品質がバラけてしまうからです。

10年前に仕事の関連でテキストマイニングについて調べていた際に、当時東大の教授をされていたマイニングの権威である辻井潤一先生に個人インタビューをしたことがあります。「テキストマイニングを行って意味のあるアウトプットデータが出てくるもの(テキスト)は何ですか?」という質問に対して、「専門用語を用いて、更に文法が論理的に書かれている論文や医療カルテ、専門性の高い報告書などは意味のあるマイニングが比較的に行えます。一方、非論理的な情報の羅列はいくら集めても意味のあるアウトプットになりにくいです。」と教えてくれました。

「仮説のない」質問が並んだアンケートの集計はいくらやっても意味がないのと同じことと言えます。データの入力はそう考えると非常に奥が深く、入力フォーマットも含めてしっかりと考えないといけないと思いました。

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