昨今、スタートアップ界隈では良く聞かれる「PMF」という言葉があります。「Product Market Fit」の略で、自社のサービスや商品があるユーザー(市場)に適合している状態のことを指します。
普通のビジネスにおいては、サービスや商品のニーズがなければ売れないというのは当たり前の事だと思いますが、スタートアップの場合は今の世の中にはないサービスや商品を売り出そうとするため、市場やニーズがあるかが分からないこともあり、PMFは(検討する上で)重要なパラメータになるのです。
PMFより調達に熱心なスタートアップ
ただ、現状の国内スタートアップの90%以上はPMFを検討する前に資金調達に力を入れている企業が多くあります。当然、スタートアップとして資金がなければ立ち上げができないので、資金調達は重要なプロセスではありますが、そもそものサービスや商品の検討そっちのけでやるべきなのかは正直疑問に思います。
以前、リーンスタートアップに関する内容をまとめたことがありますが(現場のリアルを最小限で伝えること)、まずは切実に使いたいと思うユーザーがちゃんと実在するか、更にそのユーザーがどのように使ってくれるかをヒアリングしながら本当にニーズが存在するかを作りこみ過ぎないプロダクトで試すことです。
事業計画書を作り込み過ぎるという失敗
自分もコンサルティングファームで事業計画書の作成や事業性評価の計算をなまじ齧っていたせいもあり、FRINGEの立ち上げ当初は事業計画書と資金調達、そのシミュレーションのExcel作成に没頭してしまい、まだ実際のお客さんでサービス展開していないのにも関わらず、何か全て出来上がった達成感(幻想)を持ってしまっていました。
そのシミュレーション通りに進めようとするのですが、全くその通りに進まず、毎日徹夜をして、メンバーと共に体力・精神共に徐々に摩耗していきました。特に、立ち上げ当初は壮大な計画とビジョンを作ってしまっていることもあり、テンションも高めで、毎日目標に向かってがむしゃらに頑張れば必ず結果が出るぞ的な精神状態になります。
ただ、その精神状態も6ヵ月もすれば落ち着いてきて(疲れてきて)、冷酷な現実の結果がバシバシと突き付けてきます。すると、社内で 状況判断が的確にできる優秀な人から先に冷静になっていきます。
そして、テンションが下がり、気合で乗り切れなくなり、唯一のモチベーションもなくなり、組織の雰囲気が一気に悪くなります。実際にFRINGEでもそうなりました。また、他のスタートアップ企業で働いていた時も同じような経験をしました。
社外で大きなストーリー(幻想)、社内で冷徹なストーリー(実話)
社長が社内で陣頭指揮をしている場合であれば、状況も適宜把握でき、プロダクトやサービス自体の方向性の変更など急な舵取りをすることもできるのですが、社長が社外での交流会やプレス対応に追われて社内にいない場合は、社内と社長の間にテンションの差がどんどん大きく広がっていきます。
社外では大きく見せようとして壮大なビジョンを語って満足している社長と、社内の現場では実際のお客さんのニーズが無く、空振りのプロダクトを推進しなければいけない事によって、当初のビジョンに冷めてしまったメンバーとに分かれていきます。資金調達を先に大きく取ろうとすると、社外で社長がアピールする必要が出てくるので、PMFがマッチしていない時はこうした現象が往々にして起こる気がします。
結局、切実に使ってくれるユーザーがいるかどうか
こうした失敗を踏まえて学んだことは、「資金調達をする前に、新しく作ったサービスを切実に使いたいユーザーが何名確保できるか」です。ユーザーはペルソナなどの机上の空論では意味がありません。実際に存在するユーザーが必要なのです。
一番簡単なのは、自分です。自分が切実に欲しいと思うのであれば、それで最低1名は確保できます。
更に自分以外で数名でも切実に使ってくれる人がいるならば、サービスとして展開する価値があると思います。
そこからようやくスケール出来るかどうかを検討すべきです。そういう意味で、軽い需要の「ニーズ」ではなく、切実な需要を表す「ガチニーズ」という言葉がマーケティング用語に出てきてもいいかもしれませんね。